石(短編No.008)
2002年10月8日【石】
8月の半ばの、暑い午後だった。
ゼミの連中と河原でバーベキュー。
そういう休日の過ごし方だった。
結構悪くない。
…参加者全員が男だということに目を瞑れば、だが。
着いて早々に食事というのも風情のないことだ。
僕らはまず、川に入って遊ぶことを選んだ。
上流の川の水は驚くほど冷たく、
それは頭上の太陽の存在をすら凌駕した。
僕は盛大にくしゃみをし、
盛大に鼻水を撒き散らした。
つられて誰かがくしゃみをした。
くしゃみと欠伸は伝染するものなのだ。
僕はけっこう深くて速い流れに、
逆らって泳いでいた。
ゴーグル越しの川底は、青白い別世界だった。
小魚が群れ、沢蟹が踊っていた。
こいつらはきっと、
夏の日差しの本当の暑さを知らないまま
その短い一生を終えるんだろう。
何気なく、小魚の群れに手を伸ばす。
黒い魚の塊がぱっと弾けた。
勢い余って川底の石を掴む、僕の手。
魚を掴むなんて、
雲を掴むよりは簡単だと思ったけど。
そう考えて苦笑いする。
同時に、鼻と口から空気が漏れた。
ごぼり。
無数の気泡は、すぐに下流へと流されていった。
どうやら想像以上に流れが速い場所にいるようだ。
その事実に気付いた僕は、恐怖を感じた。
川での水難事故の死亡率は、どれぐらいだったか。
急いで水から上がろう。
水中で方向転換。
川岸の方向へ。
いけなかった。
僕はこんなに深いところにいたのか?
頭が軽いパニックをおこしていた。
水面は遥か頭上にあって、
陽光を反射して輝いていた。
いつのまにかしっかりと握っていたらしい
手の中の石は、その重さを増していた。
ぬるぬるとしたその感触は、まるで血のような。
その昔、祖母から注意されたことがある。
「川の石は拾ってはいけない。
何が宿っているかわからないからね」
僕はその気色の悪い石を手放そうとした。
…ダメだった。
見えない鎖でつながれたように、
手のひらに吸い付いている。
黒ずんだ、妙にぬるぬるした、石。
僕は、その表面に眼と唇があるのを見た。
じっとこちらを見つめる冷酷な単眼。
なにかブツブツとつぶやく薄い唇。
ごぼり。
僕は声にならない悲鳴をあげた。
助けて、だれか助けて。
石の声か、僕の声か。
僕にはもう、その区別がつかなかった。
吐き出す空気は、もうない。
破裂しそうな頭痛の中、
水面にきらきらと輝く陽光を見た。
綺麗だ 思 た
「ねえ、ままー。
変な石拾ったー。
なんか顔がついてるー」
「あらあら、マコちゃんは川の石が好きなの?」
「うん、好きー」
「おおい、肉、焼けてるぞー」
「さあ、マコちゃん、
お手々を洗ってご飯にしましょうね」
「はあい。
…あれ、ままー。
この石、今、うごいたー」
──────────────────────
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
──────────────────────
久々に新作。
ちょっと長くなっちゃいました。
川の石ってのは結構マジにヤバいらしくて。
勝手に拾ってきちゃうとダメなんだと。
そう聞いております。
山の神様とか、なにか因縁があって
霊がついてたりとか…。
そう、意志を持った石(ぇ?
でもね。
あの変につるつるした石が魅力的なのもまた事実。
つい持って帰りたくなったり。
というか持って帰ってしまうんですけども(笑)
部屋を掃除してたら、
川から拾ってきた石を見つけたsinyでした。
8月の半ばの、暑い午後だった。
ゼミの連中と河原でバーベキュー。
そういう休日の過ごし方だった。
結構悪くない。
…参加者全員が男だということに目を瞑れば、だが。
着いて早々に食事というのも風情のないことだ。
僕らはまず、川に入って遊ぶことを選んだ。
上流の川の水は驚くほど冷たく、
それは頭上の太陽の存在をすら凌駕した。
僕は盛大にくしゃみをし、
盛大に鼻水を撒き散らした。
つられて誰かがくしゃみをした。
くしゃみと欠伸は伝染するものなのだ。
僕はけっこう深くて速い流れに、
逆らって泳いでいた。
ゴーグル越しの川底は、青白い別世界だった。
小魚が群れ、沢蟹が踊っていた。
こいつらはきっと、
夏の日差しの本当の暑さを知らないまま
その短い一生を終えるんだろう。
何気なく、小魚の群れに手を伸ばす。
黒い魚の塊がぱっと弾けた。
勢い余って川底の石を掴む、僕の手。
魚を掴むなんて、
雲を掴むよりは簡単だと思ったけど。
そう考えて苦笑いする。
同時に、鼻と口から空気が漏れた。
ごぼり。
無数の気泡は、すぐに下流へと流されていった。
どうやら想像以上に流れが速い場所にいるようだ。
その事実に気付いた僕は、恐怖を感じた。
川での水難事故の死亡率は、どれぐらいだったか。
急いで水から上がろう。
水中で方向転換。
川岸の方向へ。
いけなかった。
僕はこんなに深いところにいたのか?
頭が軽いパニックをおこしていた。
水面は遥か頭上にあって、
陽光を反射して輝いていた。
いつのまにかしっかりと握っていたらしい
手の中の石は、その重さを増していた。
ぬるぬるとしたその感触は、まるで血のような。
その昔、祖母から注意されたことがある。
「川の石は拾ってはいけない。
何が宿っているかわからないからね」
僕はその気色の悪い石を手放そうとした。
…ダメだった。
見えない鎖でつながれたように、
手のひらに吸い付いている。
黒ずんだ、妙にぬるぬるした、石。
僕は、その表面に眼と唇があるのを見た。
じっとこちらを見つめる冷酷な単眼。
なにかブツブツとつぶやく薄い唇。
ごぼり。
僕は声にならない悲鳴をあげた。
助けて、だれか助けて。
石の声か、僕の声か。
僕にはもう、その区別がつかなかった。
吐き出す空気は、もうない。
破裂しそうな頭痛の中、
水面にきらきらと輝く陽光を見た。
綺麗だ 思 た
「ねえ、ままー。
変な石拾ったー。
なんか顔がついてるー」
「あらあら、マコちゃんは川の石が好きなの?」
「うん、好きー」
「おおい、肉、焼けてるぞー」
「さあ、マコちゃん、
お手々を洗ってご飯にしましょうね」
「はあい。
…あれ、ままー。
この石、今、うごいたー」
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久々に新作。
ちょっと長くなっちゃいました。
川の石ってのは結構マジにヤバいらしくて。
勝手に拾ってきちゃうとダメなんだと。
そう聞いております。
山の神様とか、なにか因縁があって
霊がついてたりとか…。
そう、意志を持った石(ぇ?
でもね。
あの変につるつるした石が魅力的なのもまた事実。
つい持って帰りたくなったり。
というか持って帰ってしまうんですけども(笑)
部屋を掃除してたら、
川から拾ってきた石を見つけたsinyでした。
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