【DON’T PUSH!】
 
「それでは、これより司法解剖を行います」
 
白い部屋。
4人の白衣達に囲まれた、白い遺体。
 
死んでいるのは、男だ。
特に目立った外傷はない。
 
山奥で、首吊り用と思しき
ロープのそばで倒れているのを、
たまたま通りかかった旅行者に発見された。
 
奇妙なことに、遺体の損傷は限りなくゼロ。
バイタルは完全に死亡状態を示しているが、
何時死んだのか、何故死んだのかが
まったく特定できない。
 
そういう理由で、司法解剖に回されたのだった。
 
「しかし、まったく外傷がないな…
 それに薬物の痕跡も外面からでは認められない」
 
執刀医が首をひねる。
 
「こんな奇妙なホトケさんは初めて見ますね。
 …ん、なんだこれ?」
 
補佐の医者が、遺体の背中に何かを発見した。
 
プラスチック製、直径1cm程度の赤いボタン。
ご丁寧にも、そのすぐ上には
赤い文字でこう書かれていた。
 
Don’t push!
  ↓
  ◎
 
「スイッチ?」
 
「一体何のスイッチだ?」
 
「というかこれは何の冗談だ?」
 
「これが死因だったら笑いますよね」
 
「…」
 
「あ、こら、オマエ」
 
「もう我慢できない!えい!」
 
ぽちっ。
立会い人だった女医が、ボタンを押してしまった。
 
かちり、と。
何かが切り替わる音がして。
 
「何だったんだ、今のは…」
 
「えーと…たしかスイッチが」
 
「スイッチ?何を寝ぼけたことを…
 まあいい、司法解剖を再開しよう」
 
執刀医がメスを構えたところで。
 
         ・ ・ ・ ・ ・ ・
その場にいた3人の白衣達の動きが止まった。
 
 
 
「あれ?…ホトケさんって女でしたっけ?」
 
 
 
しばしの沈黙。
 
「違うような気もするが…気のせいだろう」
 
執刀医は、釈然としないものを感じながらも
職務に戻る。
 
もう一度遺体を眺めた。
 
「しかし、まったく外傷がないな。
 薬物の痕跡も外面からでは認められない。
 …それに、たった今まで生きていたような
 この血色のよさは何だ。気味が悪い」
 
「こんな奇妙なホトケさんは初めて見ますね。
 …ん、なんだこれ?」
 
補佐の医者が、遺体の背中に何かを発見した。
 
プラスチック製、直径1cm程度の赤いボタン。
ご丁寧にも、そのすぐ上には
赤い文字でこう書かれていた。
 
Don’t push!
  ↓
  ◎
 
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スイッチの魔力。

火災報知機のボタンは魅力的だし、
公衆電話の緊急ボタンも使ってみたい。
いや、それよりもっと。
コピーロボットの鼻を押してみたい…。

ぽちっとな。

目の前に核兵器のボタンなんかあった日には。
胃に穴があくことは必至。
…ですよね?(←同意を求めるな)

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